防火管理者の選任義務は50人から。数え方は建物が決める
「うちは小さい会社だから関係ない」で済ませているケースが多いのですが、基準は従業員数ではなく収容人員です。しかも収容人員の数え方は自分では決められません。
選任が必要になる基準
東京消防庁は、防火管理者が必要な防火対象物について次のように案内しています。
防火管理者の選任が必要になる収容人員(東京消防庁)
| 用途 | 収容人員 |
|---|---|
| 特定用途(飲食店・物販店・病院など不特定多数が出入りするもの) | 防火対象物全体の収容人員が30人以上 |
| 非特定用途(事務所・工場・倉庫など) | 防火対象物全体の収容人員が50人以上 |
出典:東京消防庁「防火管理者が必要な防火対象物と資格」。甲種・乙種の区分は用途と規模で決まります。
ここで重要なのは、「防火対象物全体の」収容人員という点です。自社のフロアだけで数えるわけではありません。
東京都は、消防法に上乗せしている
収容人員だけを見ていると、対象なのに気づけないことがあります。 東京都には、消防法施行令とは別に、火災予防条例による上乗せがあります。 東京消防庁が公表している基準を、国の基準と並べます。
防火管理者が必要になる防火対象物(東京消防庁の公表内容・2026年9月20日確認)
| 区分 | 基準 | 根拠 |
|---|---|---|
| 社会福祉施設等を含む建物 | 収容人員 10人以上 | 消防法施行令(全国共通) |
| 特定用途(劇場・飲食店・店舗・ホテル・病院など) | 収容人員 30人以上 | 同上 |
| 非特定用途(共同住宅・学校・工場・倉庫・事務所など) | 収容人員 50人以上 | 同上 |
| 新築工事中の建築物 | 収容人員 50人以上 | 同上 |
| 建造中の旅客船 | 収容人員 50人以上 | 同上 |
| 屋外・屋内タンク貯蔵所 | 危険物が指定数量の1,000倍以上 | 東京都火災予防条例55条の3(東京都の上乗せ) |
| 指定可燃物の貯蔵施設 | 床面積 1,500㎡以上 | 同上 |
| 屋内駐車場 | 50台以上 | 同上 |
| 地階に乗降場のある車両停車場 | — | 同上 |
出典:東京消防庁「防火管理者が必要な防火対象物と資格」。下の4つは東京都の条例による上乗せで、収容人員とは別の基準です。
ここがいちばん見落とされます。 「うちの事務所は50人もいないから関係ない」と思っていても、 屋内駐車場が50台以上あれば、東京都では対象です。 収容人員の話と、駐車台数・床面積・危険物の量の話は、別々に判定されます。
そしてこの上乗せは東京都の条例なので、都外でも同じとは限りません。 本社が東京、支店が他県という場合、支店の判定は支店の所在地の条例で見ます。
なぜ市によって違うのかというと、火災予防条例は市町村(または都)の条例だからです。 消防庁長官が「火災予防条例(例)」(昭和36年11月22日 自消甲予発第73号)を示していて、 各自治体はそれを参考に自分の条例を定めています。参考にする以上、同じとは限りません。
実際に確かめてみました。
防火管理者の上乗せを、他の市でも確認できるか(2026年9月21日確認)
| 自治体 | 屋内駐車場50台以上などの上乗せ |
|---|---|
| 東京都 | あり。東京消防庁が火災予防条例55条の3として公表 |
| 大阪市 | 公表ページでは確認できず。「防火・防災管理制度について」は消防法施行令の基準のみ |
| 横浜市 | 条例本文では確認できず。同趣旨の上乗せ規定が見当たらない |
出典:東京消防庁、大阪市消防局、横浜市火災予防条例(2026年9月21日確認)。「確認できず」は「無い」と断定するものではありません。公表されている範囲で見つけられなかった、という意味です。
だから、やることは1つです。 「(自分の市区町村名) 火災予防条例」で検索して、例規集を開いてください。 防火管理者の条は、多くの自治体で第55条前後にあります。 そこに収容人員以外の基準(駐車台数・床面積・危険物の倍数)が書かれていれば、 収容人員が足りていなくても対象です。
調べる時間がないときは、所轄の消防署に電話で「うちは防火管理者が必要ですか」と聞くのがいちばん早いです。 建物の用途・延べ面積・収容人員・駐車台数を手元に用意してからかけてください。
事務所は非特定用途
東京消防庁の区分では、事務所は非特定用途にあたります。したがって基準は50人以上です。
ただし、同じ建物に飲食店や物販店が入っていると、建物全体としては特定用途を含む扱いになることがあります。雑居ビルではよくある状況です。建物全体でどう扱われるかは、所轄消防署が判断します。
同じ「1階に店舗が入ると扱いが変わる」という分かれ方は、消防訓練の回数にも出てきます。→ 事務所の消防訓練に年2回の義務はない
なお、消防法とは別に、延べ面積3,000㎡を超えると建築物衛生法(ビル管理法)がかかります。窓口は消防署ではなく保健所です。→ 事務所が3,000㎡を超えたら保健所に届出/空気環境測定は2か月に1回
収容人員の数え方
収容人員は「そこにいる社員の人数」ではありません。消防法令で用途ごとの算定方法が定められており、床面積などから計算されます。
本サイトでは算定式を示しません。用途区分の当てはめと算定は、建物ごとに所轄消防署が判断するためです。次の手順で確認してください。
収容人員を確認する手順
- ① 建物の管理会社に聞く建物全体の収容人員は、すでに算定されていることがほとんどです。まずここです。
- ② 防火管理者がすでにいるか聞く建物全体で選任されている場合と、テナントごとに必要な場合があります。
- ③ 所轄消防署(予防課)に確認する自社の入居部分について、何が必要かを直接聞きます。
- ④ 入居時・増員時に見直すレイアウト変更や増員で、算定が変わることがあります。
本サイトは一般的な整理です。実際に必要な届出・設備・寸法は、建物の用途・規模・構造によって変わります。着工前に必ず所轄の消防署と、建物の設計を担当した建築士(または内装業者)にご確認ください。
テナントで入っている場合
ビルの一部を借りている場合、「建物全体」と「自社の入居部分」の2つの層があります。
テナントにも義務が出る場合
建物全体で防火管理者が選任されている
複数のテナントが入る建物
入居時に何も言われなかった
増員してフロアを増やした
選任しても、届け出なければ罰則がある
ここを落とす事業所が多いところです。消防法8条1項は防火管理者を「定めなければならない」と書き、8条2項は、定めたら遅滞なく消防長または消防署長に届け出なければならないと書いています。選任と届出は別の義務です。
防火管理でかかる罰則(消防法・2026年9月20日確認)
| 何をしなかったか | 根拠 | 罰則 |
|---|---|---|
| 防火管理者を定めたのに届け出なかった | 消防法44条8号(8条2項の届出を怠つた者) | 三十万円以下の罰金又は拘留 |
| 「防火管理者を定めよ」という命令に従わなかった | 消防法42条1号(8条3項の命令に違反した者) | 六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金 |
| 消防計画の作成・変更命令に従わなかった | 消防法41条2号(8条4項の命令に違反した者) | 一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金 |
出典:消防法44条・41条(e-Gov法令検索)。44条の柱書は「三十万円以下の罰金又は拘留に処する。」、41条の柱書は「一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。」です。
金額の桁が変わるのは「命令に従わなかったとき」です。 届出漏れは30万円以下ですが、消防署から計画の作成・変更を命じられて放置すると100万円以下になります。 言い換えると、消防署から何か言われた時点で、放っておく選択肢は無くなります。
担当者が代わったときも同じです。前任者の名前のままになっていないかを、いま確認してください。
工事のあいだにも計画が要ることがある
見落とされやすいのがここです。内装工事の期間そのものにも、消防上の管理が求められることがあります。
東京消防庁は「工事中の消防計画」という仕組みを案内しており、工事中の消防計画作成(変更)届出書という様式も公開しています。工事のあいだは避難経路が塞がれたり、火気を使う作業が入ったりするため、通常とは別の管理が必要になるという考え方です。
工事期間中に問題になりやすいこと
- 資材が通路や非常口の前に置かれる
- 自動火災報知設備の感知器を一時的に停止する(誤作動を防ぐため)
- スプリンクラーヘッドを養生で覆う
- 溶接・切断など火気を使う作業が入る
- 工事関係者が出入りし、在館者の把握が難しくなる
該当するかどうかは工事の規模と建物によります。着工前に所轄消防署に確認してください。施工業者が把握していることも多いので、見積もりの段階で聞いておくと確実です。
講習はいくらで、何日かかるのか
「必要だ」と分かったあと、次に詰まるのがここです。防火管理者になるには講習を受けます。主催は消防本部や自治体で、民間に払うものではありません。大阪市の公表内容を例に置きます。
| 講習 | 日数 | 手数料 |
|---|---|---|
| 甲種防火管理新規講習 | 2日間 | 8,500円 |
| 乙種防火管理講習 | 1日間 | 6,500円 |
| 甲種防火管理再講習 | 半日 | 5,000円 |
| 防災管理新規講習 | 1日間 | 6,500円 |
| 防火・防災管理新規講習(同時に取る) | 2日間 | 10,000円 |
| 防火・防災管理再講習 | 半日 | 5,000円 |
出典:大阪市「防火・防災管理等講習のご案内」(2026年9月17日確認)。テキスト代は手数料に含まれます。金額・日数は実施主体(消防本部・都道府県の防災協会・一般財団法人日本防火・防災協会など)によって異なります。お住まいの地域の消防本部の案内を見てください。
選任が必要になると分かった時点で、先に講習の日程を押さえてください。建物を使い始めてから慌てても、次の回まで待つことになります。
なお防火と防災の両方が必要な建物なら、同時に取れます。上の表の「防火・防災管理新規講習」が2日間10,000円で、別々に取るより日数も金額も少なくて済みます。→ 防災管理者は防火管理者とどう違うか
選任したら何をするのか
防火管理者は資格を取って終わりではありません。選任の届出と、消防計画の作成・届出が伴います。
選任にともなう主な手続き
- 防火管理講習を受けて資格を得る(甲種・乙種の区分は用途と規模で決まります)
- 防火管理者選任(解任)届出書を消防署に提出する
- 消防計画を作成し、消防計画作成(変更)届出書を提出する
- 計画に沿って訓練・点検・教育を行う
- 担当者が辞めたら、解任と新たな選任の届出をする
いちばん多い抜けが最後の項目です。選任した人が退職したまま届出を出していない、という状態は珍しくありません。
レイアウト変更にあわせて什器を見直す
収容人員や避難経路に影響する配置は、所轄消防署と管理会社にご確認ください。
- 型番・価格・納期が、その場で分かります
- 寸法を入れると、置ける物だけが残ります
- 工事を伴う場合は所轄消防署への届出が必要になることがあります
よくある失敗
従業員数で判断する
基準は収容人員です。算定方法が別に定められています。
自社フロアだけで数える
基準は「防火対象物全体の収容人員」です。
管理会社が選任しているから不要だと思う
建物全体とテナントで、責任の層が分かれることがあります。
選任者が退職しても届出を出さない
解任・選任の届出が必要です。
消防計画を作って終わりにする
訓練と点検の実施までが計画です。
よくある疑問
収容人員は自分で計算できますか。
甲種と乙種はどう違いますか。
小さなオフィスでも講習を受けたほうがよいですか。
在宅勤務が多く、出社人数が少ない場合はどうなりますか。
建物にすでに防火管理者がいます。うちは何もしなくてよいですか。
事務所のレイアウトと法令ガイドの記事一覧
- 4つの法律の地図
- 消防署への届出
- 間仕切りの選び方
- 照度・温度・トイレ
- 什器の耐用年数と経費
- 防災管理者
- 防火対象物点検
- 甲種防火管理再講習
- 統括防火管理者
- 防炎物品
- 特定建築物の届出
- 自衛消防組織
- 消防計画
- 消防訓練
- 空気環境測定
- 飲料水と貯水槽の管理
- ねずみ等の防除
- 大掃除と排水設備の掃除
- 建築物環境衛生管理技術者
- 用途変更の確認申請
- 通路幅と収容人員
- 消防設備の点検と報告
- 内装制限と防火設備
- 事務所の喫煙室は何をすれば足りるか
- 簡易専用水道とは
- 簡易専用水道の管理基準
- 簡易専用水道の検査
- 貯水槽の清掃の頻度
- 事業系一般廃棄物の基本
- 一般廃棄物と産業廃棄物の違い
- 事業系ごみの保管
- 委託先の許可の確認
- 多量排出事業者の計画
- 分別と協力義務
- 騒音規制法の特定施設
- 特定施設の設置届
- 数・防止方法の変更届
- 氏名変更・廃止の届出
- 承継の届出
一次情報の確認先
このページに書いたことは、以下の公的機関の公表情報で確かめています。制度は変わることがあるので、確かめた日を各所に書き、確認先も置いています。